大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)39号 判決 1984年5月31日
大阪市生野区田島六丁目一四番一号
控訴人
木林菊夫
右訴訟代理人弁護士
太田全彦
同
松本保三
同
長井勇雄
大阪市東成区東小橋二丁目一番七号
被控訴人
東成税務署長 高田久治郎
右指定代理人
高田敏明
同
中野英生
同
塩飽弘志
同
細川健一
右訴訟代理人弁護士
上原洋允
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は、「1 原判決を取消す。2 被控訴人が昭和四四年三月四日付で控訴人に対してなした(一)控訴人の昭和三八年分の所得税についての更正処分及び重加算税賦課決定(国税不服審判所で一部取消された後のもの)のうち総所得金額七六万三二六八円、税額五万二五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定の全部(二)控訴人の昭和三九年分の所得税についての更正処分及び重加算税賦課決定(国税不服審判所で一部取消された後のもの)のうち総所得金額一〇二万九五〇四円、税額九万円を超える部分及び重加算税賦課決定の全部(三)控訴人の昭和四〇年の所得税についての更正処分、過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(国税不服審判所で一部取消された後のもの)のうち総所得金額二〇七万六七二三円、税額三六万七五一〇円を超える部分及び過少申告加算税並びに重加算税賦課決定の全部(四)控訴人の昭和四一年分の所得税についての更正処分及び重加算税賦課決定(国税不服審判所で一部取消された後のもの)のうち総所得金額二三五万一四八二円、税額四〇万六一六〇円を超える部分及び重加算税賦課決定の全部(五)控訴人の昭和四二年分の所得税についての更正処分、過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(国税不服審判所で一部取消された後のもの)のうち総所得金額三〇六万五五七二円、税額六〇万五〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定並びに重加算税賦課決定の全部をいずれも取消す。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張関係は、次に付加するほか(ただし、原判決三枚目裏二、三行目の「本件更正処分等という」を「控訴人に対する昭和三八年分ないし昭和四二年分の更正処分を「本件各更正処分」と、加算税賦課決定と合わせて「本件各更正処分等」とそれぞれいい、また右各年分につき個別的に「更正処分」、「更正処分等」ともいう。」と改める。)、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用し、証拠関係は、原審における本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
更正処分は確定申告書を提出した者に対してなすべきものであって、確定申告書を提出しなかった者に対して更正処分をすれば、右更正処分は課税要件に関する重大かつ明白な瑕疵があるものとして無効であり、また、確定申告をした者は誰かということについては、確定申告が納税義務の確定という公法上の効果が生じる私人の公法行為であることからすると、原則として確定申告書に表示されたところに従って決すべきものであるところ、本件において、確定申告書に表示された者は控訴人の妻・木林栄であり、控訴人は何ら確定申告書を提出しなかったことは明らかであるから、被控訴人は、控訴人に対して無申告による決定処分をなすべきであったにもかかわらず、過まって過少申告を理由とする本件各更正処分をなしたものであるから、本件各更正処分は明白かつ重大な瑕疵があるものとし無効である。
(被控訴人の主張)
控訴人の前記主張は争う。
即ち、被控訴人は、控訴人に係る調査に基づき本件事業所得の実質的帰属者を控訴人であると認定し、木林栄名義の確定申告については所得金額を零円とする各更正処分をなし、
同時に、控訴人に対して本件各更正処分をなしたものであるから、本件各更正処分には重大かつ明白な瑕疵はもちろんのこと、取消し得べきほどの違法事由も存在しない。
理由
一 当裁判所も控訴人の請求は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次に訂正・付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一二枚目表九行目の「いう」を「主張する」と改める。
2 同一四枚目表三行目の「乙第三号証、」の次に「乙第一〇号証、」を挿入し、三、四行目の「、証人」から五行目の「号証」までを削除する。
3 同一六枚目表九行目の「供述し、」の次に「原審証人菊地和夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一八号証(控訴人の作成した損益計算書)には、」を挿入し、一〇、一一行目の「(成立に争いのない乙第一八号証)」を削除し、一一行目の「を認める供述をしている」を「が記載されている」と改める。
4 同一八枚目表一〇行目の「旨」の次に主張し、原審における控訴本人は」を、裏八行目の「副う」の次に「原審における控訴本人の」をそれぞれ挿入する。
5 同二一枚目表八行目の「乙第一五号証、」を削除し、九行目の「乙第一四号証」の次に「、乙第一五号証」を挿入し、裏九行目の「ところで、」から二一枚目表三行目までを次のとおり改める。 「なお、控訴人は、当審において、被控訴人は、控訴人が確定申告書を提出しなかったから、控訴人に対して無申告による決定処分をすべきであったのに、本件各更正処分をなしたものであるから、本件各更正処分は無効である旨主張するので、この点について判断する。
なるほど、更正処分は、確定申告書を提出すべき義務のある者が当該申告書を提出した場合に始めてなされるべきのものであり(国税通則法二四条)、右の者が確定申告書を提出しなかったときは決定処分がなされるべきこと(同法二五条)が明らかであるところ、前記引用の原判決認定の事実、成立に争いのない甲第一ないし第一〇号証並びに弁論の全趣旨によると、木林栄は昭和三八年分ないし昭和四二年分の所得税についての確定申告書を被控訴人に提出したが、控訴人はこれを提出しなかったところ、被控訴人は、所得の実質的帰属者が控訴人であるとして、昭和四四年三月四日、木林栄名義の確定申告書については右各年分の所得金額を零円とする更正処分をなすとともに、控訴人に対し、確定申告書を提出しなかったことによる決定処分をしないまま、本件各更正処分をなしたことが認められるから、本件各更正処分が違法であるとされる余地がないでもない。
しかしながら、決定処分と更正処分とでは、所得諸控除の有無(昭和四三年法律二一号による廃止前の所得税法八八条及び昭和四〇年法律三三号による改正前の同法二八条参照),無申告加算税の有無等において、後者が納税義務者にとって有利であり、その他の所得金額の認定事由には両者に何らの相違もないから、仮に、決定処分をしないで本件各更正処分をなしたことが違法であるとしても、控訴人は、決定処分を受けるよりも不当に権利を侵害されたということにはならず、本件各更正処分の取消を求める法律上の利益を有しないものというべきであり(最高裁昭和四〇年二月五日第二小法廷判決、民集一九巻一号一〇六頁参照)、この点についての控訴人の主張は失当である。」
6 同二二枚目表七行目の「なお」から裏七行目の「ない)、」までを削除する。
二 よって、前記判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 長谷喜仁 裁判官 下村浩蔵)